電池の負荷応答を模擬できるシミュレータの検討

1. はじめに

  1. はじめに
    電池を使用する製品では世の中にある電池(マンガン、アルカリなどの一次電池から、ニッケル水素、リチウムイオンなどの二次電池)を想定しなくてはならない。ただし、こういった電池はそれぞれの起電力、内部抵抗や放電特性をもつ。したがって、使用する電池によって製品の回路が正しく動作することを検証し、製品として対応できる電池を明確にしておく必要がある。対応電池を限定すれば製品設計としては楽になるが、製品としての魅力が損なわれることになる。したがって、なるべく広く対応したいものだが、流通しているすべての電池に対してすべて詳細に調査することは現実的ではない。そこで
    下記のような「バッテリ・シミュレータ(2281S Battery Simulator)」なるものがケースレーから出ていたりする。これを活用することで世の中の電池をモデル化し、パラメータを変更することことで電池の種類や劣化具合を定量的かつ効率的に評価することが可能である。一方でこの測定器は約30万円ほどであり、お手軽に買うことができないので、今回簡易的なものを作ってみることにする。

電池で駆動する機器を設計するためには、電池のさまざまな特性について知っておかなければならない。例えば、電池の寿命は、その出力電圧よりもESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)特性によって決まることのほうが多い。この傾向は、特に電池の電圧をスイッチングレギュレータで昇圧するシステムで顕著になる。

2. WEB情報から参考回路

図1 電池のシミュレータ回路 この回路を使用すれば、さまざまなタイプの電池の負荷応答をシミュレーションすることができる。
本稿では、電池のESR特性を模擬できるシミュレータ回路を紹介する。図1の回路において、赤色の破線で囲んだ負荷応答フィードバックネットワークの部分の定数値を変更すれば、さまざまなESR特性を模することができる。それにより、リチウムイオン電池やアルカリ電池を含むほとんどのタイプの電池の特性を表現できる。また、試験の対象となる機器に0.5V~4.2Vの電圧と数Aの電流を供給し、その条件における各種電池のESRを模擬することが可能である。ESRが最終値(定常値)に達するまでの遅延時間は、ポテンショメータRESRを調整することで設定する。
図2 シミュレーション波形(その1) コンデンサC4を取り除いた場合の結果。シミュレータ回路の出力は、大型リチウムイオン電池の応答に近いものとなる。
IC1は高精度の5V基準電圧源であり、これにより無負荷時の出力電圧を設定する。パワー出力部は、電源電圧を8Vとし、トランジスタQ1を用いて構成している。抵抗R8は出力パワーを制限するために使用する。出力電流量を抵抗R9で検知し、それをIC4で20倍に増幅する。IC4からの出力信号が負荷応答フィードバックネットワークに入力され、ここでESRのレベルと応答時間の両方が調整される。なお、この回路図では、電源のバイパスコンデンサは省略している。

図3 シミュレーション波形(その2) コンデンサC4を使用した場合の結果。シミュレータ回路の出力は、小型電池の応答に近いものとなる。先述したように、負荷応答フィードバックネットワークの定数を適切に選定することにより、電池の種類やサイズに応じたシミュレーションが行える。まず、この部分の回路からコンデンサC4を取り除き、抵抗RESR1、RESR2、RESR3、RESR4を100kΩにすると、最も基本的なESR特性を模擬することになる。具体的には、コンデンサC4を取り除き、1Aのパルス負荷電流を入力すると、その応答は2000mAhの18650型(直径18mm、長さ65mm)リチウムイオン電池の応答に非常に近いものとなる(図2)。一方、コンデンサC4を使用した場合には、200mAhの小型リチウムイオン電池の応答に近い出力特性が得られる(図3)。このような調整を適切に行うことにより、さまざまな応答特性を得ることができる。
次にRADECHでカスタマイズ設計してみる。

3. 回路動作をLTSpiceで確認する

3.1 DC特性

図 1:DC特性評価回路
図 2:制御電圧 vs 出力電圧特性

3.2 過渡特性

図 3:過渡特性評価回路
図 4:上記回路条件での擬似電池出力過渡特性
「負荷応答feed back network」の諸元とR14,R15(ポテンショメータ)の値により、擬似電池の内部等価抵抗の大きさおよびその過渡応答時間を設定することが可能。

3.3 LTSpiceでの注意点

ここでシミュレーション回路の規模大きいのかクリティカルな部分があるのか不明ですが、デフォルト条件の計算条件では収束せずに停滞してしまうことがあります。
そこでControl Panelの以下の部分を修正します。精度は多少悪くなりますが、大枠の特性確認には使えると思います。
なお、このオプション設定を変更すると稀に全く異なる結果になることがあるので、あらかじめ想定している波形をイメージしておいた方がいいでしょう。

この回路の各部分の役割と動作の説明は続く・・・

3.4 路の各VR変更での特性変化

図 5:仮想ESR調整パラメータの動作特性
図 6:VR2の値による動作
図 7:VR3による特性変化
図 8:VR3による特性変化
図 9:VR4による特性変化
図 10:VR4による特性変化

4. 実回路での過渡応答波形

元々「バッテリエミュレータ」なるものを必要と考えていたのはPWMでヒータ加熱制御を行うにあたり、実際の電池(アルカリ、マンガン、ニッケル水素電池(二次電池))での特性を評価したかったというものがあった。PWMの周期は10kHz程度ではあるが、Dutyを考慮したとき、周波数換算で約100kHz程度の速度の過渡応答特性を見る必要があった。
そこで、実際にPWMによりヒータを加熱しているときに波形を観測してみることにする。

評価回路
図 11 新品:Panasonic FR03HJ/4B リチウム一次電池
電圧ドロップ:238mV ※なぜが新品の方が電圧ドロップが大きい。
図 12 中古:Panasonic FR03HJ/4B リチウム一次電池
電圧ドロップ:198mV 電圧ドロップの程度としては以下のような結果となった。
NiH2 < リチウム一次 <アルカリ電池
図 13 三菱電池:中古 アルカリ電池
電圧ドロップ:182mV

5. 擬似電池評価ボード第1号・・・(失敗品)

5.1 ボツ回路と基板

試作一号(失敗)回路
ここまで作っておいてボツ!

5.2 ボツ理由

AD628の応答が悪い

AD628の諸元

PWM動作時のON/OFFの電源変動追従性を考慮すると、この応答速度は100kHz相当の周波数帯域での特性を評価する必要がある。
左に示すAD628の小信号周波数応答特性でG=+10(これはトータルゲインを示しているのか不明)のとき、100kHz付近ではAD628としてゲインがない。


スイッチングFETの発熱
FETのゲートの閾値が例えば4Vくらいであれば、Vgsは4V以上必要ということであり、出力電圧を3Vにしたとき、3+4=7Vの以上のゲート電圧が必要となる。しかもリニアな動作をさせるため約4V分はFETで損失させることとなる。ドレイン電圧としては少し高めにするが、本回路では負電圧レギュレータ(NJU7660AV)の動作範囲が10Vmaxとなる。1Aの負荷を想定した場合、装置の入力電圧を10Vとすると10-3=7Vの電圧降下と1Aの電流なのでFETでの損失が7Wとなる。これはかなり大きい。そこで、FETをパワートランジスタに変更すればVceの飽和電圧が約0.2Vであり、またVbeが0.6V以上であればいいので、元の電源電圧を下げることができ、その結果パワートランジスタでの損失と発熱量が下がる。一方、トランジスタを使用する場合、電流ドライブとなるので、なるべく電流増幅率の大きい(hFE)2SD型のトランジスタを使用する必要がある。OPAMPの出力電流が大体10mAくらいまでとし、1A以上流せるようにするにはhFEは最低100は必要であるが、余裕をもって500くらいあるといい。ダーリントントランジスタを使用することでもその効果はあるが、Vce飽和電圧が1Vくらいとなるので、今度はこちらでの損失が大きくなる。FETの場合はゲートの電流が流れ込むことはないので、その点は楽かもしれない。今回のバッテリエミュレータの場合図 14に示す2SD1828のダーリントントランジスタ(TO-220パッケージ)がいいのもしれない。

図 14 2SD1828の諸元

6. 疑似電池評価ボード第2号

6.1 回路図・パターン図(ASSY)

試作1号評価ボードの反省を踏まえ、OPAMPを高速なもの(GBW=5MHz)のものを使用、ドライバーFETのパッケージをTO-220にして放熱フィンを追加したものを新規に設計。

図 15 擬似電池評価ボード2号の回路図
図 16:擬似電池評価ボード2号のパターン図

C1,C5は回路の応答速度に結構影響あり。ここではなるべく小さくしておく。
R6は定電圧制御用の帰還抵抗。これも小さい方が応答は早くなるが、あまり小さいとリンギングが起きるので、大体3.3kΩ程度とした。C7は発振防止用。
電流検出用にWU732BTTD10L0F(10mΩ)を直列にして20mΩとしている。そのシャント抵抗のドロップ電圧は電圧を1/2にしてIC4(OP183)の差動アンプで受けている。1/2にするのはOPAMPの動作点でなるべくリニアな部分にもっていくためである。OP183の入力オフセット調整機能を使用することで、入力段にある10kΩの抵抗ばらつきを含めたオフセットのズレを補正する。

6.2 完成

7. 試作評価2号機の動作をLTSpiceで検証する

7.1 DC特性

820mA出力時の計算上との比較

項目LTSpice実機
820mA流した時のシャント抵抗(20mΩ)の電圧降下値0.82 X 0.02 =16.4mV  17mV
差動OPAMP(IC7)の出力電圧-0.0164 / 2 = -8.2mV-9.9mV (オフセット調整誤差が含まれるから)
IC3の7番ピン電圧-566mV(※)-595mV
Vout3.068V(※)2.992V
※オフセット調整されている前提

【結論】
LTSpiceではOP183のモデルがなく、オフセット調整された状態のシミュレーションができないので、少しややこしいが、もし、オフセット調整されたとしたとき上記【条件1】の回路条件においてLTSpiceの3.068Vに対して実機基板が2.992Vだったので、概略としてはシミュレーション結果と相関が取れていると判断。

【発展】電源電圧を9V→7Vにするとシミュレーション上では出力電流と電圧降下の関係が単純低下の関係ではなくなる。

本来グラフの赤点線で示す特性になるのだが、ドライブFETのVdsが低いため、このような特性になってしまう

7.2 過渡特性

図 18過渡応答検証用シミュレーション回路
過渡応答的にもこの回路であれば追従性があることがわかった。 実際の電池でおこなった実測波形、図 11、図 12、図 13で測定された電圧降下分と シミュレーションで算出され324mVの電圧降下はオーダー的には近いものなので、VR2,3,4を調整することで実電池のふるまいに近づけることが可能だと思われる。

7.3 過渡特性(実測)

実機上で過渡特性を見てみる。実機基板では図 18のR10,R11に相当する抵抗を削除してフィードバック無しの状態で実際の電池との比較を行ってみる。つまり負荷電流による電圧降下のフィードバック系を切っているので、単純に定電圧回路としての過渡特性となる。

電池エミュレータの出力端の波形 電圧降下約30mV
負荷条件 約2.5V 5Ω 
約60kHzの矩形波スイッチング (Dutyによって異なるため)
同じ供給ポイントから満に近いアルカリ電池相当で電源を供給した場合の電源供給端での電圧降下 約75mV
同じ供給ポイントから満に近いニッケル水素電池相当で電源を供給した場合の電源供給端での電圧降下 約50mV

従って、電池エミュレータのベース回路構成としてはニッケル水素電池相当をエミュレーションする応答速度のポテンシャルを持っていることがわかった。
あとはESRを調整することでいろいろな電池をエミュレートできることが期待できる。

8. むすび

原理的な動作とある程度評価の実用性が確認できたら、これをマイコンで制御・モニタできるようにし、使い勝手を改善することも視野にいれておきたい。

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