パワーインダクタの評価


最近の電子機器は電力効率を少しでも良くするためDCDCコンバータが多様されるようになりました。DCDCコンバータの重要なキーパーツして「パワーインダクタ」があります。
このコイルですが、一般的にコイルの諸元(容量)を測定するにはLCRメーターを使用しますがこの容量(インダクタンス)はコイルに流す電流と密接な関係にあります。まず、電流を流すと磁界が発生します。この磁界の強度は電流が大きくなるとそれに比例して大きくなりますが、コアの許容量以上の電流が流れると磁気飽和状態となり、コイルとしてのインダクタンスが低下→インピーダンス低下→交流電流の増加→発熱→さらなるインダクタンスの低下というように悪循環(カタストロフィー)に陥ります。特にキュリー温度点近くになると危険です。
ということで、皆さんがDCDCコンバータを設計していくうえでパワーインダクタの実力を肌で感じられるような実験をしてみます。

1. 原理

インダクタLに対し電圧VをSWでパルスを印加する。そうするとLが一定であれば、傾きΔI/Δtは一定となり時間(t)に対して電流(i)はリニアに増加していく。見方を変えれば、電流が大きくなると傾きが変化するとなるとL(インダクタンス)が変化するということになる。
そこでパルスを発生できる測定治具を作成して身近にあるパワーインダクタの実力を調べてみることにする。

2. 試験装置製作

2.1 回路図

テスト回路としては約100Hz周期で測定対象のインダクタにパルス電圧を加え、そのときの電流波形をオシロ・スコープで観測します。パルス生成は定番のタイマーIC555を使用。同じ電圧なら、波形のランプが緩やかなほどインダクタンスが大きいと言えます。 パルス幅は、広い範囲のインダクタンスに対応するため、JP1で「short time range」と「long time range」でレンジ切り替えとボリウムで微調整できるようにしている。供給電圧Vsは、電圧を任意に設定できる安定化電源等で外部から供給します。また、パルス電流によってVsがディップすると測定に影響を与えるため、C8,C9には超低ESR型のキャパシタを使用する

評価用回路

2.2 基板設計と評価ボード

切削で片面基板で製作

イッチングFET(IRLB3034PBF)は40V195A程度流せるモノを使用。

オシロで測定して場合、10mΩのシャント抵抗を使用してるので、100mVであれば10Aとなる。

TOP面
Bottom面

2.3 評価用基板の基本動作確認

長周期パルスの様子。IC2の周期は約10msec(100Hz)

本テスト治具の時間設定範囲は以下のような感じ。

時間設定モード最小設定時間(usec)最大設定時間(usec)
short mode9.131.1
long mode11.0298.0

3. 身の回りにあるコイルを測定してみよう。

電源電圧:6V インダクタンス(公称):157uH, Q=11.43(LCRテスターにて測定) L = Vs * Δt / ΔI 区間A: Δt=128.57us, ΔI=3.073A → 251uH
区間B: Δt=76.43us, ΔI=6.1A → 75.18uH
区間C: Δt=96.429us, ΔI=15.64A → 37.0uH
35Aくらいで巻線抵抗の影響で電流が頭打ちになる。(上記グラフ外となっているが) 5Aくらいで磁気飽和している。
電源電圧:6V インダクタンス(公称):1.6uH, Q=10(LCRテスターにて測定) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=6.429us, ΔI=22A → 1.7uH
区間B: Δt=5.743us, ΔI=16.8A → 2.05uH
コイルの特性としてはかなり(・∀・)イイ!!
電源電圧:6V 型名:CDRH104R-100N (スミダ) インダクタンス(公称):10uH, Q=55(LCRテスターにて測定) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=10.8 us, ΔI=5.9A → 11.04uH
区間B: Δt=5.743us, ΔI=22.2A → 1.5uH
5.9Aくらいで磁気飽和する(仕様通り)
CDRH104R-100N (スミダ) から抜粋
電源電圧:6V 型名:デジット購入? インダクタンス(公称):76uH, Q=16(LCRテスターにて測定) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=107.85 us, ΔI=4.35A → 148.75uH
区間B: Δt=72.143us, ΔI=16.14A → 27.0uH
7Aくらいで磁気飽和する。サイズが大きな割にショボイかも
電源電圧:6V 型名:デジット購入? インダクタンス(公称):9.1uH, Q=20(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=35.0us, ΔI=12.85A → 16.34uH
区間B: Δt=21.786us, ΔI=17.6A → 7.42uH
13Aくらいで磁気飽和する。巻き数はあまり多くない。 インダクタンス容量変化が大きい。
電源電圧:6V 型名:デジット購入? インダクタンス(公称):192uH, Q=16(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=214.28.0us, ΔI=4.428A → 290uH
区間B: Δt=147.143us, ΔI=10.4A → 84.9uH
200uHと大きいため4Aくらいで磁気飽和する。
電源電圧:6V 型名:手巻き インダクタンス(公称):20.7uH, Q=90(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=127.143us, ΔI=31A → 24.6uH
区間B: Δt=147.143us, ΔI=20.14A → 43.8uH
50Aくらまで飽和しない。カーブが寝てくるのはおそらくエナメル線の抵抗成分が影響しているのかもしれない。
電源電圧:6V 型名:何かのパルストランス(2次側) 0.4Ω インダクタンス(公称):1mH, Q=110(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=165.714us, ΔI=1.143A → 870uH
区間B: Δt=113.571us, ΔI=9.34A → 73.0uH
実質1Aくらいまでしか使用できない。 それ以上は飽和領域となっている。カーブが寝てくるのはエナメル線の抵抗成分の影響。 特性的にはフェライトコアと同じになっている。
電源電圧:6V 型名:何かのパルストランス(1次側) 0.1Ω インダクタンス(公称):65uH, Q=40(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=38.143us, ΔI=3.8A → 60uH
区間B: Δt=9.429us, ΔI=7.256A → 7.8uH
3.8Aくらいで飽和している。 このパルストランスは使えない!(;´_`;)
電源電圧:6V 型名:不明(密閉型) 13x13x6.5 インダクタンス(公称):32uH, Q=55(LCRテスターにて測定@100kHz) L=Vs * Δt / ΔI
区間A: Δt=120us, ΔI=22A → 32.7uH
区間B: Δt=60us, ΔI=20A → 18uH
45Aくらいまで使えそう

以上!

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