以前、KAWAIのPW700を購入した。(1994年製)久しぶりに弾こうとして電源を入れてみたが、音がならない。
見た目的にきれいで、まだ30年近くしか経っていないのに壊れるなんて・・・
当時25万円くらいしたような気もします。
KAWAIのサポートサービスで修理できるかどうか問い合わせてみた。案の定、すでに保守部品がないとのことで修理不可の回答。動かない電子ピアノを置いておいても滅茶苦茶邪魔なので、電子ピアノリサイクル業者とかに連絡したが、この手のものは有償で引き取り廃却するらしく2,3万円くらいかかるようです。
市役所の大型ゴミとして廃却した方が\1000以下で処分できるが、60kgくらいある重量物なので、運び出すのも一苦労。どちらにしても分解しないと出せないので、分解することにした。どうせ分解するのであればどんな故障なのか?どんな品質の製品なのか調べてやろうと思って作業を開始した。
症状と要因解析
このような電子家電の故障として以下のような項目が考えられる。特に今回電子ピアノという要素を考慮すると
NO. | 症状 | 故障となる主な要因 | 今回の故障に当てはめて分析 |
---|---|---|---|
1 | 電源が入らない LEDが点灯しないなど。 | 電解コンデンサーは経年劣化するレギュレータなど発熱を伴う部品は壊れやすい | 電源投入時、LEDは普通に点灯する。 電源リレーも問題なく動作しているようだ。 電源ボード上のヒューズもすべて切れていない。また、電解コンデンサーも膨らんでいたり、液漏れしているような気配は見られないため、特に電源系は問題ないと考える。 |
2 | ボタン操作(メニュー操作)ができない | タクトスイッチの機械的・接触部の劣化によるものコネクタハーネスの断線 | 簡単なスイッチ操作もできるので初見では特に操作系の問題はないと判断。 |
3 | 音がならない(その1) ボリュームを動かすと「ガリガリ音」がする | ボリュームなどは比較的壊れやすい。特に経年劣化によりカーボンと金属接触しているところが不安定になり「ガリガリ音が出たりする」アナログアンプ系はパワーアンプや高電圧を使っているところが比較的壊れやすい。(発熱を伴うことが多いので壊れやすい) | ボリューム可変したとき、ガリガリ音が鳴らないのでこの故障である可能性は低い。(そもそもこれだけの故障であれば音は鳴るはず)スピーカーおよびヘッドホンで耳を澄まして無音時のノイズを聞いていると、左右対称にアンプの残留ノイズが聞こえるのでアンプの故障の可能性は低いと考える。 |
4 | 音がならない(その2) 一部の鍵盤の音が鳴らない | 鍵盤センサーの故障 接触型のセンサーを使用していると摩耗劣化する可能性がある。 | 今回すべての鍵盤で音が出ていないので、まずはこの故障ではないと考える。 音が出るようになったとき、個別にこの故障があるかもしれないが。 |
5 | 音がならない(その2) その他の要因 | 音源を発生しているメイン基板の故障 | これまで簡単に考えられる故障要因では当てはまらないので、最終的にメイン基板の故障である可能性が高くなった。 また、KAWAIのサポートサービスの方の話ではこれまでこの機種で同じような症状が発生していて、その都度メイン基板を交換して対応していた(在庫切れ)との話も聞いていたので、おそらくメイン基板上の何らかの不具合が故障の要因だと判断した。 |
分解
左右下の2か所のネジを外すと車のボンネットみたいに上部が開くようだ。この構造がわからなくて最初は苦労した。結局KAWAIのサポート担当者に教えてもらった。そしたら右に示すように鍵盤部と電子回路部が見える形になった。
蓋が開いたところで、電源基板にあるヒューズやコンデンサーの状態をチェックしたが、得意怪しい部分は見られなかった。次にメイン基板を調べる。
メイン基板を調査する
メイン基板の点検と修理
なんじゃこりゃ!
基板の表をパッと見て「なんじゃこりゃ!」って感じでかなり抵抗やICの足が腐食しており錆が浮き出ている感じになっている。特に見た目酷かったのはクロックの缶が錆で表面が茶色になっていた。こんな状態のものを見たのは初めてである。メイン基板の以外の基板はそれほど腐食が進んでいるように見えなかったので、このメイン基板があるところが特殊な環境なのか、あるいは製造上の問題だったのかは不明。
とりあえず正常にクロックが動作しているのか調べてみよう。
約33.33MHzとなっていた。クロック周波数は本来ケースに捺印されているとは思うのだが、錆でわからなくなっている。 発振強度的には十分なので、この水晶振動子の中身までは錆が回っていないとも思われる。(たぶん・・・)
各部品の交換と修理
それにしても抵抗の足の腐食がひどすぎる。
それですべての抵抗器に対してピンセットでちょっと突いてみた。そうすると、なんてことでしょう!「ポロ」と抵抗器の足と本体が外れてしまったものが2個ほどあった。
抵抗器以外のICも同じように足の腐食は見られたものの、破壊や断線に至るところまではなかった。それにしても酷いものである。どういった環境だったらこんな風になるのかな。
30年近くの年月は恐ろしい。
同じように断線している10Ωの抵抗があり、配線をたどるとマイコンとメモリ間のクロックのダンピング抵抗っぽい。それが切れるとそりゃー動かないわなぁ。
ついでに電解コンデンサーや怪しいものを交換してこう。これは二重層コンデンサー。0.22F 5.5Vおそらく演奏を記録する機能があったので、そのデータをバックアップするものだと推測される。
取り出してLCRメータで測定したところ、数pFの容量を示し、もはやコンデンサーとしての部品の機能はなく単なるゴミがついている感じ。
いくつかの電解コンデンサーの容量をチェック!
公称10uF (測定値 8.4uF ESR 2.4Ω)
公称4.7uF(測定値 4.0uF ESR 14.4Ω)
少しESRが高くなっている感じはしたが、案外コンデンサーとしての機能ははたしてそうな値である。現在であればこれくらいの容量であればセラミックコンデンサーが使われると思われる。
本当はすべての足が腐食している抵抗器をすべて交換したかったのだが、さすがに面倒なので、今回は見送り。また、壊れたら同じような感じで見ていこう。
今回の検査でもう一つ気になったのはスルーホール。ランドに形成ついてはティアドロップにして断線の信頼性を少しでも確保しようとしているのがわかる。スルーホールの径は約0.5mmと推測される。
紙フェノール基板なのでそんなもんかな。 むしろ頑張っている感じ。
鍵盤のメンテナンス
まとめ
やるだけのことをして、再度組みなおして電源ON!動いた!
ちゃんと音が鳴るではないか!一時は捨てようとしたものが復活した。録音も正常に動作している。
それにしても教訓としては30年近くの年月はモノを劣化させるなぁって思った。
ただ、製品寿命として設計時に立ち戻った時、信頼性に対するレベルが部分によって若干差があるように見えた。鍵盤やセンサーはかなり信頼性設計をしている一方、電子回路基板はそれより信頼性が劣る設計をしているように感じた。
今の電子回路設計ではもう少し部品点数の削減と基板の信頼度が向上しているため、製品全体の信頼性設計のバランスが取れていると思われる。
今後もKAWAIブランドとしていい製品を開発されていくことを期待したい。