電流測定アダプタ for Analog Discovery2の製作

1. はじめに

近年IoTの流行もあり、様々なデバイスが出てきています。ただ、常に気になるのは電源問題でなるべく低消費電力で動作させる必要があります。そのようなセンサーデバイスを開発する際、マイコンなどの動作電流を測定するときにテスターを使ったりすることがあるかと思いますが使用するケースによってはちょっと厄介なことが起こります。

テスターで電流を測定する場合、”mA”モードと”A”モードがあります。そしてマイコン開発などでは”mA”モードを使用することになるかと思います。ここで一般的なテスターではシャント抵抗に電流が流れることによる起電力を測定していますが、mAオーダーの電流を測定するにはある程度シャント抵抗が大きくないと降下電圧は低くなってしまい精度よく測定できません。試しに以下のような実験をしてみます。安定化電源から1Vを出力します。

Figure 2-1 簡単な電流測定系

Photo 2-1 デジタルテスターによる電流測定している様子

100Ωの負荷になっているので電流=電圧/抵抗なので100mAを示すはずですが、実際には82.9mAと表示されています。つまりFigure 2‑1で示すテスター内部のシャント抵抗が影響しているものと思われます。1 / (10 + Rs) = 0.0829(A)。この関係よりRs(内部抵抗)は2.0627Ωとなった。また一般的デジタルテスターはおそらく積分型のA/Dコンを使用しており、測定精度が高いものの応答が遅く、ログ出力周期も1秒くらいなので、マイコンの動作に追従した測定が難しい。デジタルマルチメータを使用すればその辺は解消されるが装置が少し大きくなりお手軽に測定するのが難しい。そこで今回Analog Discovery2を使用してマイコンなどの動作電流をお手軽に測定できるようにする。

Photo 2 2 テスターの内部抵抗を測定

右のテスターを抵抗測定モードにして、左のテスターの”mA”測定時の内部抵抗を測定してみた。おおよそ2.6Ωあるようだ。
※低抵抗測定なので接触抵抗やテスター内部のオフセットなど多少測定誤差が含まれる可能性がある。 ちなみに右のテスターは抵抗測定時には620uA程度の電流を流すようだ。

もう少し高価なマルチメータの電流測定も基本同じ測定方法となる。
例えばAdvantestのR6552ではシャント抵抗が30mA以下は10.5Ω以下、300mA,3000mAレンジでは0.4Ωと結構大きい。

2. 装置仕様

  1. シャント抵抗の影響を受けない電流測定装置
  2. IoTや小型機器の動的な消費電流の変化を測定できる(AD2のオシロスコープ、データロガーを活用)
  3. ついでに電源変動試験が行えるようにする。(任意波形で電源電圧を可変できるようにする)

2.1 使用範囲・条件

項目内容備考
電源出力部      
電源制御出力最大周波数100kHz程度矩形波の出力で確認
電源出力波形任意WaveFomgen の機能に依存 ただし、負電圧は出力不可能なので最低電圧は0V~5Vの範囲になるように設定してください。
最大出力電圧3.5V以下:内部電源時 5.0V以下:外部電源使用時内部電源から取る場合は、 で5V outをEnableにしてください。[JP3]で設定
最大出力電流約200mA以下:内部電源 約300mA以下:外部電源 (平均)外部電源を使用した場合、瞬間電流としては500mA程度供給可能です。特に電流制限回路などありませんので回路保護のための目安にしてください。 ピーク電流負荷に対して余裕を持たせるため外部電源供給を推奨します。(12V 1A)
電流測定部  
電流測定チャネル数ただし電流測定と、オシロプローブとは排他 ジャンパーを[CU.]に設定
電流測定範囲~500mA [x10]設定時 ~50mA [x100]設定時倍率の設定により“Scope”および”Logger”の表示設定を設定すると見やすくなる。
オシロ入力ポート数ただし電流測定と、オシロプローブとは排他 ジャンパーを[Prob]に設定
その他  
プローブ接続可能       電圧・電流測定は排他A/D入力を流用
入出力コネクタBNC × 2:入力プローブ用 ねじ固定ターミナル:信号出力 
外部電源10V~18V電源Φ2.1 マル信プラグ
外形サイズ52.0mm × 49.5mm (基板外形図) ケースはTB-31(TESHIN)をイメージ  

2.2 基板上のジャンパースイッチの設定

電源ソース源の選択
IN: 内部装置からの電源供給
EXT:外部電源(ACアダプタ 12V 1A)からの電源供給

測定選択ジャンパー
[CU.]にジャンパーを設定:電流値を測定
[Prob]にジャンパーを設定:基板上のBNCコネクタ入力になる。ただし、DC接続のみ。

電流測定時の倍率設定ジャンパー
シャント抵抗1Ωに発生する起電圧の増幅率設定
[x100] 100倍にする。10mA→10mVを100倍にするので1Vとなる。
[x10] 10倍にする。100mA→100mVを10倍にするので1Vとなる。

4. 詳細設計編

4.1 回路方針

出力段にはAD8607が採用されており、駆動電流はこのOPAMPの出力特性となる。
一般的な電流ドライブ回路としては「エミッタフォロア」が考えられるが、単純にトランジスタだけを追加しても、ベースにかかる「電圧-0.6V」となり、設定電圧と若干低い電圧になってしまい。出力電圧が低い領域で使用するとき、どうも使い勝手が悪い。
またNPNトランジスタ一個の「プッシュ」タイプのみだとコンデンサーやコイルなどの負荷の状態によって、電圧が正しく設定されないこともあるので終段トランジスタは「NPN+PNP]を組み合わせたプッシュプルとし、設定電圧と定電圧制御を補助するためOPAMPにてFB制御することにした。こうすることで、プッシュプル回路で生じるクロスオーバー特性の改善も同時に行うことが可能となる。

4.2 ANALOG DISCOVERY2の仕様確認

Analog Discovery2のAWGの出力段で使用されているOPAMP

Table 5 1  AD8607の出力特性
このデータシートから多く見積もって使える電流は30mA以下となり、100mAも流すとOPAMPは壊れる可能性がある。
一方、ヒーターやモーターなどではPWM電源が用いられることもあるため、このAWG出力の電流強化アンプアダプタを製作し、幅広い実験や評価に用いられやすくする。

4.3 回路図

実は最初にアダプタ基板を作った後、試験評価して何度かてジャンパー改造修正を経て、最終回路としては以下のようになった。作動アンプのオフセット調整用に不電源がどうしても必要となり、急遽子亀基板を作成して追加した。

電流測定は1Ω(1% MCR18EZHFL 1R00)のシャント抵抗で測定。アンプはAD626を使用し、10mA/1V、100mA/1Vの切り替え可能。

4.4 ひとまず完成

TOP面(改造済み)
急遽追加した負電源生成基板
Bottom面(改造済み)

それぞれ改造が必要ななった経緯もあるが、細かい評価内容などあっても面白くないかもしれないので割愛します。”(-“”-)”

5. 部分評価改良

5.1 OPAMP NJM2119問題

最初定電圧制御用のOPAMとしてNJM2119を使っていたが、どうも調子がよくない。

Figure 5-1 NJM2119を使用した場合のシミュレーション回路
内部電源にしたとき、OPAMPの飽和特性のため、シミュレーションでは出力最大電圧は約3.5V、これを実機で測定したら実力として最大電圧は約4Vになった。入力周波数10kHzの方形波, 0-5V。あくまでも実力値です

Graph 5-1 内部電源ですべて動作させた場合(実機)
シミュレーションとほぼ同じ結果となった。

この評価結果よりNJM2119では
①内部電源(5V)で動作させた場合、rail to railではないので出力で電圧範囲が狭くなってしまる。ただしこれは外部電源から入力すると解決できます。問題は次の
②周波数特性がよくない。NJM2119の利得帯域幅積(GB積)が1.0MHzのようです。これは1MHzまで使えるわけではなくゲインとの積なので利得を上げると使用できる周波数は下がります。
GB=1MHzではやはり10kHzの方形波出力はかなり鈍る・・・
せめて100kHzの方形波出力くらいまではまともな波形で出したいってことで、再度OPAMPを見直してみる。
(最初から検討しろよ!って話ですけど・・・_l ̄l○lll)
手持ちの在庫からとりあえず使えそうなものを物色してみる。

5.2 OPAMPをOP283に変更してみる

このOPAMPはすでにEOLになっているのですが、結構使いやすいです。GB積も5MHzあるので、これに期待してみます。

10kHz時シミュレーション出力波形
10kHz時の実機出力波形
100kHz時シミュレーション出力波形
100kHz時の実機出力波形(無負荷)
100kHz時の実機出力波形(負荷10Ω)

OP283ではシミュレーション結果にほぼ合っている。周波数応答的に約100kHz出力設定あたりが限界か!?

10Ω負荷、つまり5V時には500mA流れるような状態においても出力波形は大きく崩れることはない。(対象位相がズレているようにも見えるが・・・)
このときドライブ用トランジスタ2SD2402の温度は約64℃だった。
これ以上の電流を扱うのであればさらに損失の大きなトランジスタとヒートシンクが必要になってきそう・・

5.3 電流負荷時の様子

制御用OPAMPとしてOP283はまず良好な特性を示したことから、このOPAMPをつけた状態でさらに電流負荷があるときに特性を見ていくことにする。(電流ドライブ能力の確認)

方形波出力周波数(Hz) (duty 50%)電圧(Vrms) オシロのMEASUREで測定電力(W)
(V^2/Rより)
1003.571.274
1k3.561.267
10k3.541.253
100k3.301.089
10Ω負荷時の出力特性

6. 実際に使ってみよう!

6.1 サンプル負荷の準備

試験環境外観

負荷としてCH1は500Ω、CH2は20.2Ω抵抗をつけることにする。
ジャンパーの設定は
CH1:電流測定[CU.], ゲイン100倍[X100]
CH2:電流測定[CU.], ゲイン10倍[X10]

USB電源ステータス

Analog Discovery2を接続しただけで左のようなUSB電流ステータスになっているので、内部から電源供給はあまり使用しない方がいい。
ちなみに上記抵抗を設置した後で ”から”Power supplies”で5V出力を有効にする。USB電源ステータスを確認すると軽い負荷でも以下のように500mA近くとなり、suppliesを使用した電源はDUTの安定動作という点から内部から電源は推奨しない。今回は外部電源(12V)供給[EXT]とする。

6.2 電源ソース減の設定

それでもやはり軽微な電源として必要な時は内部の電源で使用すると便利な時がある。その場合は以下の設定で5V OUTをEnableにする。

また、「Photo 3 1 電源ソース選択」ジャンパーで「IN」側でショートさせる。
なお外部電源を使用する場合は上記の設定は不要である。

6.3 Wavegenの設定

通常の電源として使用する場合は「DC」で設定する。(CH1)
ヒーターのPWM電源ソース源、または任意波形の電源ソースとして使用する場合は0~5Vの範囲になるように出力波形を設定する。

PCツール上のAWG出力設定画面

6.4 Scopeの設定

AnalogDiscovery2には任意の波形を生成できるWaveform Generatorが2channelある。 5Vまでの電圧を任意の波形で出力することが可能である。 またCH2では1kHz周期のPWM電源波形を出力しているが、この電流測定応答を見る限り、マイコンレベルでスリープや動作電流の変動は測定できそうである。

【測定単位の設定】
このWaveformの”Scope”は一般的なオシロスコープのユーティリティー画面になっているが、測定単位を”A(アンペア)”で表示することが可能である。

6.5 Loggerを使う

電流変化を長期的にログ記録したいときにはLoggerを使用する。
ログファイルデータの保存。 [ファイル]-[Export]を選択すると以下の画面が現れる。



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